渉外判例2016 (ICN-101)
ポイント
反政府活動を行っていたウガンダ人女性が、ウガンダ政府から迫害を受けるおそれがあるか、難民条約上の難民に該当するか、つまり「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するか」についての事実認定が争われた事案です。
事実の概要
女性活動家は、2005年頃から、ウガンダの政党FDCの党員として政治活動を開始する。FDCの関連組織であるWWIの代表代行を務め、女性支援のための活動を行った。その後、各種の政治運動に参加した際、複数の男達から襲撃を受け、暴行を加えられ、入院・流産の経験もある。隣国のスーダンやウガンダでは身の安全が図れないと考え、アフリカ手工芸品の輸出販売会社へ入社する。
2008年に、日本最大の「国際雑貨EXPO(GIFTEX)」へ参加するため、「短期滞在」の在留資格(在留期間を15日)で、上陸許可を受けた。その後、名古屋でのビジネスを模索するため、「特定活動」への在留資格変更許可を受けた。この活動資格は、本邦から出国するための準備のための活動で、日常的な活動(収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を除く)」の在留資格であり、在留期間は1月であった。
日本への入国後、友人のWWI書記との電話で、ウガンダ政府があなたを探しているから帰国しない方がよいとの助言を受け、恐怖を感じ、帰国しないことを決意する。
2008年頃難民認定制度を知り、2009年難民支援協会の援助の下難民申請をしている。2010年5月に不法残留容疑で摘発された。
判旨
法務大臣による難民不認定処分、名古屋入国管理局長による在留特別不許可処分および名古屋入国管理局主任審査官による退去強制令書発付処分すべてを取消した判決です。
事実認定については、ウガンダに帰国した場合には,FDC党員であること又はウガンダ政府に反対する政治的意見を有していることにより不当な身柄拘束や暴行等の迫害を受けるおそれがあるということができ,通常人においても,上記迫害の恐怖を抱くような客観的事情があると認められる。したがって,控訴人は,入管法にいう難民に該当する、と判断しています。
分析
控訴人陳述書の客観性や供述調書での通訳や供述内容の信用性の問題、襲撃事件での証拠(診断書)などを仔細に検討することにより、被控訴人(国、法務大臣等)の主張をいずれも採用しなかった。当初難民申請の意思がなかったことや申請手続きへの遅れが、控訴人の行動の切迫性(迫害を受けるおそれ)がないのではないかとの疑問に、判決はこう理解している。
《本邦に入国してとりあえず危険を免れているという安心感があったであろうことも考慮すれば,手続や制度が分からない異国にあって難民認定申請が遅れたことが,迫害を受けている者の行動として不自然であるとまではいえない。。。。
被控訴人の主張は,いずれも控訴人の難民該当性に関する上記判断を覆すに足りるものではない。むしろ,控訴人が来日してから働いてウガンダの家族や親族に送金したことがないことや、短期大学を卒業して職を有し、ウガンダでは相応の生活を送っていた控訴人が,金銭的に極めて厳しい生活を送りながら本邦にとどまっていることからすれば,ウガンダ政府からの迫害から逃れるという点以外に,控訴人が,夫と子供3人を残して本邦に残留を希望する積極的な動機も,証拠上特に見当たらないと解するのが相当である。》とする。
実に、ウガンダの情勢について深い理解に支えられた判決ということができると思います。
[裁判長 揖斐潔、弁護士 川口直也、川津聡、下田幸輝、大嶋功]
参照:ウエストロー・ジャパン文献番号 2016WLJPCA07286008
支援団体:
認定NPO法人難民支援協会
公益財団法人アジア福祉教育財団難民事業本部