うつ解消~自信回復のための『7つの習慣』

もし、あなたが今落ちこんだ気持ちをもっていたら、今回以降の話はお役に立てるかもしれません。落ちこんだ気持ちやうつなどの気分や感情を追いはらいたい、こころや身体を健康に保って、心身ともにヘルシーな自分にしたいなと思った人は、ぜひお読みください。

さてヘルシーな自分にするには、どうしたらよいでしょうか。今までの習慣を、エビデンス(科学的根拠)に基づいた生活習慣に変えれば、それが可能になります。

ウェルビーイング(Well-Being「幸せ・健康」)の先進国オーストラリアのメンタルヘルス・ファーストエイド(MHFA)のセミナー*および最新の栄養理論**(Food&Mood「食べ物と気分」)、これまでの科学的エビデンスをもとに、幸せな健康生活を組み立てていきます。

「自信回復7つの習慣」とは?

「自信回復7つの習慣」とは、

第1の習慣●ものごとを分けて、心配ごとを減らす

第2の習慣●変えることができなければ、自分が変わりなさい

第3の習慣●気分をよくする食事をとる

第4の習慣●身体を大事に運動を習慣にする

第5の習慣●睡眠の法則を知ってスマートに実践する

第6の習慣●人生あるがままに、でもちょっとだけいいことをする

第7の習慣●立ち直るための工夫をする

です。

第1と第2の習慣では、心配ごとを減らす工夫を、第3と第4、第5の習慣ではこころに影響を与えている食事、運動、睡眠の最新知見を探検し、第6の習慣では、幸せの健康生活の具体的な行動を、最後の第7の習慣では、すべての習慣を無理なく続けるにはどうしたらよいかについて、さまざまな知恵を絞ります。

ではさっそく、「第1の習慣●ものごとを分けて、心配ごとを減らす」に行きましょう。

第1の習慣●ものごとを分けて、心配ごとを減らす

ものごとを分けるには、①自分のできることとできないことを分ける、②自分の思いをちょっと遠くから離れてながめてみる、ことです。

①自分のできることとできないことを分ける

タイトルの絵をご覧ください。円の外側に、「自分ではどうにもコントロールできないこと’I CANNOT CONTROL’」を書きだします。

たとえば、病気・災害・コロナの流行、他人の行動や幸福、将来の予測、ガソリンの価格、この状況がどのくらい続くだろう、他人がどう反応するか、などです。これは、自分ではどうにもコントロール(調整)できません。

「自分ではどうにもコントロールできないこと」の場合、「自分はこれらのことをそのままにして、ほおっておきます。’So, I can LET GO of these things’」

つぎに、「自分でコントロールできること’I CAN CONTROL’」を書きだします。

たとえば、マスク・手洗い・3密回避、ソーシャルディスタンスを自分で保とう、テレビやSNSの利用を制限しよう、家で面白いことを見つけよう、どのように他人に接するか、などです。これは自分でコントロール(調整)しようと思えば、できます。

「自分でコントロールできること」ですので、「自分はこれらのことに集中します。’I will focus on these things」

自分でコントロールできることとできないことを分けて、できることに専念すると、心配ごとが減ってきます。

②自分の思いをちょっと離れてながめてみる

何かに失敗して、「自分はダメだ」と思うことがあるでしょう。そのときに、「自分はダメだと本当に信じてますか?」と自分に問いかけます。そうすると、「そうでもないね、他人が言ってるだけじゃない?」、「今はダメかもしれないけど、ダメでなかったときもあるよ」、もしかしたら「自分はダメだと思ってるだけ」かもしれない。

そうです。わたしたちは、しばしば、「自分の(ダメだという)思い」と「自分が直接経験してきた世界」をくっつけて、混同してしまいがちです。生れてから、少しづつ言葉を学んできて、直接経験した世界とは別の世界、つまり「言葉の世界」にとらわれてしまいます。「自分の思い」と「直接経験してきた世界」の差があまりなくなってしまい、疑問ももたず、自動的に、「自分はダメ」な人間だと思ってしまうのです。

そこで、こう考えます。

「自分がダメだと思っている」んだなあ。いいや、「自分がダメだと思っている自分がいるんだなあ」と、自分を遠くからはなれてみる自分に気づくことができるでしょう。

具体的な方法としては、「言葉のくりかえし」や「葉っぱに思いをのせて流す」などがあります。

「言葉のくりかえし」は、たとえば、「自分はダメだ」という言葉に、身体やこころが異常反応する場合、「ダメ、ダメ、ダメ、ダメ、、、、、」と早口で声に出したり、わざとゆっくり「ダ~メ、ダ~メ、ダ~メ、、、、、」と大きな声で繰り返します。つぎに、「ダメ」の当て字を漢字で考えたり、ダジャレを言います。たとえば、「駄飴(だあめ)」とか「だあ~れ?」など、すこしふざけて、ダメという言葉に自分を慣れさせます。いろいろな言葉を口にだいして、笑いがでてきたらこちらのものです。

「葉っぱに思いをのせて流す」は、座ってもいいしベッドに横になってもいいし、リラックスした姿勢をとります。そして、目を閉じます。小さい頃に遊んだ川があれば、その川原に座って川を眺める自分をイメージします。その川に葉っぱが流れてきます。一枚、二枚、三枚と。自分が今考えていることや感じていることを、その流れてくる葉っぱにのせます。幸せなことでも悲しいことでも、ポジティブなことでもネガティブなことでも、その思いをその葉っぱにのせます。いろいろな思いを葉っぱにのせ続けます。もし、その川を流れる葉っぱのイメージが途切れたり、いろんな思いが乱されたり、思いが出てこなくなったりしたときは、最初のリラックスした状態に戻り、初めからやり直します。

たとえば、「自分はダメな人間だ」→葉っぱにのせる、「どうしてなんだろう」→葉っぱにのせる、「でもそんなに駄目じゃないよな」→葉っぱにのせる、「何でこんなこと考えてるんだろう」→葉っぱにのせる、「無駄じゃないの」→葉っぱにのせる、、、、、、。5分前後やってみるのがいいでしょう。川の自然な流れに、葉っぱが流れていくのをただ眺めます。

すこしこころが軽くなりませんか。

次回は、「第2の習慣●変えることができなければ、自分が変わりなさい」です。

【Note注】

*メンタルヘルス・ファーストエイド(MHFA)のセミナー*(2021年10月8日開催facilitated by Dr. Michael Carr-Gregg)

** 最新の栄養理論(Food&Mood「食べ物と気分」)は、

The Food & Mood Centre at Deakin University  https://foodandmoodcentre.com.au/

【参考】

Russell Harris (2006), Embracing Your Demons: an Overview of Acceptance and    Commitment Therapy, Psychotherapy in Australia, Vol.12 No4, pp.2-8

Russell Harris 2011), The Confidence Gap: A Guide to Overcoming Fear and Self-Doubt, Trumpe

第2の習慣●変えることができなければ、自分が変わりなさい

自信回復7つの習慣の2回目は、「第2の習慣●変えることができなければ、自分が変わりなさい」です。

わたしたちは、人生の中で、ストレスや失望、失敗などさまざまな辛い時期があります。そのような困難にどのように立ち向かったらいいのでしょう。これはわたしたちのウェルビーング(Well-Being「幸せ・健康」)に大きな課題となっています。自分に起こることをわたしたちには選ぶことができないのが普通ですが、起こることにどう対処するかは、選ぶことができます。

現実では、その対処の仕方はなかなかやさしいものではありませんが、最近のすぐれた研究知見の一つとして、レジリエンスを学ぶことができます。

レジリエンスとは、逆境をはね返す力、回復力とかの意味ですが、イメージとしては、強風にも折れることなくしなやかに耐える樹木の姿や、落ちても弾んで戻ってくるボールのイメージを思いえがくと分かりやすいかもしれません。

「第2の習慣●変えることができなければ、自分が変わりなさい」の言葉は、米のマヤ・アンジェロウ*から引用したものです。

『それが好きでないときにすべきことは、それを変えることです。もし、変えることができなければ、あなたの考え方を変えることです。不満を言ってはいけません』

精神科医のヴィクトール・E・フランクル**は、「生きる意味」を求めて悩み苦しむ人々を援助し続けてきました。彼は、こう言っています。

『人間からすべてのものを奪うことはできる。ただ一つのことをのぞいて。それは、人間の自由の最後のもの―与えられたどのような環境においても自分の態度を選ぶ自由、自分自身の道を選ぶ自由だ。』(夜と霧<(Man’s Search for Meaning>)

いずれも、ものごとはいろんな困難があるけれども、主体的に自分を変えていくことで、それを実現するということです。

さて、逆境をはね返す力(レジリエンス)をもつ、しなやかで強い自分に変えるにはどうしたらいいのでしょう。

代表的なレジリエンストレーニングに、ポジティブ心理学のマーティン・セリグマン博士のペン・レジリエンシー・プログラム(PRP)がありますが、その情報は本や研修に譲ることとして、ここでは、レジリエンスをどう育むかについて、オーストラリアの子ども向けのプログラム***を紹介します。もともと、レジリエンスは、発達心理学を中心に発展してきたものですが、子ども向けも大人向けも基本は同じだと思います。支援する側のやり方を、大人の自分に置き換えて、どうすれば自分のレジリエンスを高めていけばいいかを、自ら考え、工夫して、セルフケアを実行することも一つの方法でしょう。

レジリエンスを考える場合、まず、苦難や逆境を避けたり、失くすことが大事だという議論があります。現実の世界を考えると、そう考えるより、苦難や逆境を経験したときに、それをどうやって克服するか、つまりレジリエンスをいかに育むか、がより重要だと考えます。

レジリエンスを育む要因として考えられるのは、本人とそれを取り巻く環境とに分けられます。本人では、本人自身の苦難や逆境に対応する力や健康的な考え方の習慣をつけること。環境面では、家庭や一定のコミュニティなど社会的要因があります。つまり、両親の効果的な育児法や兄弟姉妹などの家庭内関係や愛着を高めること。学校・隣人・友達・同僚などの一定のコミュニティ内でのポジティブな関係促進。そして、マスメディアや政治経済環境、立法、社会文化的価値などの社会的要因です。

そこで、レジリエンスの育み方の枠組みを、図に示しました。5つの鍵があります。

1.レジリエンス教育、2.支援関係を作り、強化し、促進する、3.自主性と責任感にフォーカスする、4. 感情をうまく処理させる、5.個人でチャレンジする機会を作る、の5つです。

以下、一つずつ分かりやすく説明します。

1.レジリエンス教育

まず、あなたがパイロットだと想定します。飛行中に、当初の予想に反して、かなり天候が悪くなりました。目的地まで安全に到着するために、どのように飛行機を操縦するかをイメージしましょう。

どのくらい悪い天候が続くのか、どのくらい長く過酷な状況が続くのか、これらの判断は、パイロットの自分だけではどうにもならないでしょう。この悪天候で、副操縦士や客室乗務員、地上クルーの支援なしでは、目的地まで安全に到着することはできません。副操縦士、客室乗務員、地上クルーは、両親や兄弟姉妹、おじおば、近隣の人・友人・同僚、親戚、学校の先生や健康支援の専門家などに当たります。

レジリエンスとは、

・自分や環境(家庭内の関係性など)とそれらの相互作用が絡んだダイナミックなプロセ

スを通して発展されるもの。

・時が経つにつれて変わるもの。

・現在の苦難や逆境経験を扱う、あるいは将来の苦難や逆境経験に準備できる、誰もが学

ぶことができるもの。

・家族や文化的背景、幅広いコミュニティを含むさまざまな場所で、違ったように見える

もの、です。

個人がもっていたり、もたなかったりするものではありませんし、個人のスキルや能力だけに限ったものでもありません。もちろん、生まれつきのものでもありませんし、遺伝的なものでもありません。ネガティブな感情から解き放されたものでもありません。

このことを肝に銘じましょう。

さて、レジリエンスを育む日常的な方法として、4つの具体策があります。

2.支援関係を作り、強化し、促進する

・レジリエンスを育む基礎になるのは、子どもとの質の高い関係性づくりです。読書したり、映画などを見て、困難な時を経験した主人公について、「あなたならどう感じるの」、というように、エンパシー(共感)を経験する機会を与えましょう。

・ソーシャルスキルを改善するため、まだ会ってない友人・知人に会う機会をつくったり、子どもの友達と一緒にゲームをしたり、なにか一緒の課題を解決するようにセッティングしましょう。

・「これはちょっと難しいかも知れないけど、チャレンジすることはいいことよ」と、子どもがなにかにチャレンジするように、促します。

 3.自主性と責任感にフォーカスする

・当人が困難に直面しているときに、「どう対処するの、どんなやり方をするの」、と話しかけます。

・たとえば、部屋の整理をどうするかや誰かのお祝いをどうするかなど計画を立てさせ、当人自身に決めさせるようにします。

・「何か心配はないの」など積極的に子どもにたずねる。なにか課題を考え、課題を解決する機会を作って、複数の友達といろんなアイデアを出し合うようにさせます。

 4. 感情をうまく処理させる

レジリエントな人になるということは、いつも気持ちがよいことでも感情を表に出さないことでもありません。健康的でポジティブな方法で、感情をうまく処理させることができる人です。

・悩んでたり苦しんでいたりしているときに、「悲しんでいることが分かるよ、泣いてもいいよ」と、当人が抱くその時の感情を認めるようにします。

・たとえば、プレゼンテーションのことを心配しているときは、家族で、静かな所で、一緒に練習し自信をつけさせます。

・ときどき、「今日起きた最もいいことは?」「今日かなりしんどかったことは何だっけ?」と話しかけます。これは、当人の感情を認めさせたり、感情をはっきりと表現させる学びとなるだけでなく、課題解決のスキルや対処法を発展させる良い機会になります。

・マインドフルネス、呼吸法などのリラックス法を日々の生活に取り入れます。

5.個人でチャレンジする機会を作る

・「日常の」苦難、たとえば、雨の日にぬかるみを歩かせたり、やったことのない料理を作らせたり、野外でのゲーム感覚での迷路体験などがあります。

・「健全なリスク」体験を推奨します。健全なリスク体験とは、たとえば、やりたいなあと興味があるけれでもやったことのないことで、スポーツの体験、ダンス、演劇クラブへの参加やオリエンテーリング、キャンプなどへの参加があります。

これまでの自分の生活習慣を変えることはなかなか難しいですが、困難を乗り越えられる、しなやかな自分になりたいと思うなら、もう一つ踏み込んで、日常的に小さな決心を積み重ねて、新しいことにひとつずつチャレンジすれば、気分も変わって自信も取り戻し、なにか違う別の日常がみえてくるはずです。

【注】

*マヤ・アンジェロウMaya Angelou (1928~2014)

アメリカを代表する黒人女性詩人、作家、公民権運動家。

**ヴィクトール・エミール・フランクル(1905~1997)、オーストリア精神科医心理学者

***オーストラリアの子ども向けのプログラムは、Beyond BlueのBuilding resilience in children aged 0–12: A practice guide より採用した。Beyond Blue(有限責任保証会社)は豪州の代表的なメンタルヘルス支援機関で、300万人のオーストラリア人の不安・うつ・自殺への情報や学習機会の提供を行っている。

第3の習慣●気分をよくする食事をとる

自信回復7つの習慣のうち、

「第1の習慣●ものごとを分けて、心配ごとを減らす」では、ACTなどの新世代認知行動療法を、「第2の習慣●変えることができなければ、自分が変わりなさい」では、レジリエンス・トレーニングのお話しをしました。

さて第3の習慣では、「気分をよくする食事をとる」です。

これまでは、からだやこころをコントロールするのは、脳だという時代がありましたが、近年、腸(gut)の研究が進展したおかげで、人のからだやこころは、腸と脳という軸*で理解する考え方の時代に入っています。

つまり、恐れや不安などの情動(emotion)や気分(mood)は、腸の中にある微生物(ビフィズス菌や乳酸菌などの腸内細菌)の影響が強く、その腸内細菌**が脳にも一定の強い影響を与えている、ということです。

言い換えると、からだに良い影響を与える腸内の善玉菌が増え、腸内の環境が良くなると、脳に良い影響を与え、うつ病などのこころの不調が改善して、ハッピーな気分になる、ということです。

さて、腸内環境を良くするには、5大栄養素***だけでなく、食物繊維やファイトケミカル(7大栄養素)などを摂ることで、「善玉菌」が活動しやすい腸内環境になることが科学的に証明されています。

具体的な食事療法****を行って、こころの不調が改善した例をご紹介します。

豪州メルボルンでなされたSMILES実験での食事療法は、中等症から重症のうつ病患者を対象に、修正版地中海料理を使ったものです。世界初のランダム化比較試験(RCT、質が高く根拠ある科学的研究手法)で、食事療法グループの32%は、うつ病の寛解が見られた。つまり、うつ病が完全に消失しました。(詳細は、最後の注および文献を参照してください)

さて、実験で使われた地中海料理とは?具体的な食べものはどうなっているのでしょうか。

一つずつ、図の下の食べものから、説明しましょう。

【全粒穀物(全粒パン、玄米、シリアル】

食事の基本です。必要に応じて、一日5-8回。一回分は、たとえば、全粒パン一切れ、あるいは、調理済みの穀粒1/2カップ(玄米、オーツ麦、全粒パン、全粒パスタなど)、あるいは、オーツ麦1/4カップ、あるいは、ライ麦または小麦で作った薄いかりかりのクリスプ・クラッカービスケット3枚

【野菜と果物】

野菜は、一日6回自由に。一回分は、調理済みの野菜1/2カップ。たとえば、スイートポテト、キャベツ、ニンジン、山の芋、セロリ、玉ねぎ、あるいは、葉の多い緑色野菜1カップ、あるいは、トマト1個(75g-100g)

フレッシュな果物一日3回、。一回分は、150g、リンゴ・西洋梨・オレンジ・バナナ・メロンの中型一個。キューウィーフルーツとぶどうなど小型の果物2つ、あるいは、30gのドライフルーツ。

【乳製品】

一日2-3回で低脂肪のもの。一回分は、ミルク1カップ、あるいは、200gのヨーグルト、あるいは、40gのチーズ、あるいは、120gのリコッタ(イタリア産の柔らかい無塩の白チーズ)

【オリーブ油】

エクストラバージンオリーブオイル(オリーブの実をしぼっただけの精製されていないオイル)一日一回、テーブルスプーン(大さじ)3杯、あるいは、60ml

【ナッツ類】

未加工で、塩なし味付けなしを一日一回。一にぎり、あるいは、30gのナッツ(アーモンドとクルミ)、あるいは、30gの種、あるいは、30gのナッツバター(大さじ2杯)

【マメ科植物】

一週間に3-4回。一回分は、マメ科植物1/2カップ(ひら豆、ひよこ豆、いんげん豆)、あるいは、75gのホムス(ヒヨコマメを裏ごししてペースト状にした中東料理)、あるいは、100gの豆腐

【赤身の肉】

赤身のあるいは見た目で脂肪をなしの肉を一週間に3-4回。一回分は、手のひらサイズの赤身の肉、あるいは、65-100gの肉、あるいは、1/2カップのひき肉、あるいは、2つの小さなチョップ(骨付き切り身)

【魚】

脂っこい魚(イワシ、ニシン、サーモン、マス、サバなど)を少なくとも一週間に2回。一回分は、100gの調理ずみの魚、あるいは、95gの缶詰

【鳥類の家畜(鶏肉、鴨肉、七面鳥の肉)

皮なしで一週間に2-3回一回分は、手のひらサイズ、あるいは、80-100gの鶏肉、七面鳥か鴨肉

【卵】

一週間に6回まで一回分は、60gの卵(卵1個分)

【エクストラ(追加のなにか)】

一週間に3回まで。一回分は、デザート1個、あるいは、砂糖入りの飲み物で小瓶・小サイズの缶1本、あるいは、ポテトチップス小袋一個。

SMILESの食事療法は、栄養学の専門家とソーシャルサポート(Befriending protocol:ビフレンディング治療プログラム=食事療法と同じ訪問時間と長さで専門のビフレンダーによって実施。スポーツやニュース、音楽などのトピックを話合ったり、カードやボードゲームを一緒にしたりと、通常の精神/心理療法ではない方法を採用)でなされたものです。このようなサポート環境にないとしても、食事療法の効果は筆者も立証ずみですので、チャレンジしてみることは大事だ、と思います。

なお、納豆や漬物、ヨーグルト、味噌、醤油といった発酵食品は、腸内環境を整える作用があります。腸内の善玉菌の増加と、悪玉菌を抑制する働きを持っています。

最後に、参考までに、うつの人だけでなく、万人に勧められる「健康的な食事プレート」を載せておきます。

「健康的な食事プレート」はハーバード公衆衛生大学院の栄養学専門家とハーバードヘルス出版の編集者たちによって作られたもので、健康的でバランスのとれた食事をするための手引となっています。

地中海料理との共通点も多くあります。

次回は、食事とともに、とっても大事な睡眠のお話しです。

*腸脳軸(gut-brain axis)あるいは、腸脳連繋(gut-brain connection; 腸脳相関、脳腸相関)と呼ばれている。

**腸内細菌には「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌(ひよりみきん)」の3種類があり、

善玉菌は消化吸収の補助や免疫刺激など、健康維持や老化防止などへ影響がある菌で、代表的な菌にはビフィズス菌や乳酸菌がある。反対に、悪玉菌はからだに悪い影響を及ぼすとされ、代表的な菌にはウェルシュ菌・ブドウ球菌・大腸菌の有毒株があり、また日和見菌は健康なときはおとなしくしているが、からだが弱ったりすると腸内で悪い働きをする(日和見菌感染症の発症)菌のこと。

***栄養素とは、人などが栄養のために身体の外から取り入れる食品などの物質のこと。炭水化物、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラルの5つが5大栄養素、植物繊維を入れて6大栄養素、ファイトケミカルを入れて7大栄養素と言われている。

第6の栄養素「食物繊維」は主に穀物(玄米、胚芽米など)、芋(さつまいも、里いも、こんにゃく)、豆(大豆、うずら豆、あずき、納豆、おから)、野菜(ごぼう、ふき、セロリ、アスパラガス、キャベツ、白菜など)、果物(みかん、グレープフルーツ、バナナなど)、きのこ(しいたけ、しめじ、えのき)、海藻(わかめ、寒天、ところ天)に含まれている。

第7の栄養素「ファイトケミカル」は、ブルーベリー、ぶどう、大豆、セロリ、パセリ、ピーマン、緑茶、果実類、カカオ、ブロッコリーやタマネギに含まれています [ポリフェノール]。また、ニンジン、カボチャ、トマト、ミカン、ホウレンソウ、スイカ、ブロッコリー、カボチャ、トウモロコシ、モモなど [カロテノイド]に含まれている。

****SMILES実験は、2012年10月-2015年7月に豪州メルボルンで実施された、世界初のランダム化比較試験(RCT、質が高く根拠ある科学的研究手法)である。参加者67人のうつ病(大うつ病性障害)患者を、食事療法グループ33名と非食事療法グループ34名に分けた。介入実験の12週間後、食事療法グループは、非食事療法グループに比べて、うつ病の改善が見られた。食事療法グループの32%は、うつ病の寛解が見られた。つまり、うつ病が完全に消失した。

第4の習慣●身体を大事に運動を習慣にする

古代ギリシャの哲学者プラトン(紀元前427-347年)の言葉にあるように、子どもたちには、音楽・文芸だけでなく、体育(運動)の必要性が強調されています。これは、どんな環境の変化に出会っても、健康を保持できるだけの体力とからだを扱うための技術をもち,さらに、身体的な苦痛を伴うつらい鍛練に耐え抜く精神力をもった人間の育成につながる、と考えていたからです。

みなさんのからだと心はつながっています。からだを動かし、行動的になることは、からだの健康によいだけでなく、わたしたち皆をハッピーな気持ちにさせてくれます。運動は、気分をたやすくよくしてくれるし、うつの状態から抜けださせてくれることさえできます。

みんながマラソンをしなければならない、ということではありません。もっと、日常的に運動をすることができるでしょう。アウトドアで過ごしたり、健康な食べ物を食べたり、スマホなどのスイッチを切ったり、十分な睡眠をとったりすることで、わたしたちのウェルビーイング(Well-Being「幸せ・健康」)を高めることができます。

さて、行動的で健康になるには、実際どんな方法があるのでしょうか?

トロントのマイク・エバンス博士は、「健康にとって最も良い一つのことは何でしょう」、と問いかけます。

答えは、「一日のうち、座ったり寝たりする時間を23時間半に制限すること」です。

そのこころは、「一日24時間のうち、30分のウォーキングをすることだけ」です。

エバンズ博士の科学的研究の結果、30分のウォーキングをすることで、

・膝の関節炎の痛みが47%とれる

・高齢者の認知症やアルツハイマー型認知症の進行が50%防げる

・高リスクの糖尿病患者の進行が58%防げる(他のポジティブな生活習慣の変化と合わせて)

不安が48%低減する

うつの症状が30%改善する

ことが分かりました。

さて、別の科学的エビデンスを見てみましょう。

マイケルバブヤック他の研究**は、50歳以上のうつ病(大うつ病性障害)患者156人によって行われました。

運動グループ***、薬物療法グループ****、運動+薬物療法グループと3つのグループがランダムに分けられました。それぞれ4ケ月コースで、運動はエアロビクス、薬物療法では抗うつ薬のセルトラリンが使用されました。4ケ月の研究治療後の6ケ月で症状がどうなるか、を最終評価しています。

4ケ月の治療後は、3つのグループすべてで、重要な改善が見られた(ハミルトンうつ病スケールの少なくとも13→8へ)。しかし、10ケ月後をみると、運動グループは、薬物療法グループや運動+薬物療法グループよりも、うつ病の再発率が有意に低下し、運動によるうつ病症状の緩和効果が大きいことが分かりました(下図を参照のこと)。

このように、運動の習慣、たとえば、少なくとも一日30分以上のウォーキングなどが科学的にその有効性が認められています。

早速、今日から、ウォーキングをはじめましょう。

次回は、第5の習慣「●睡眠の法則を知ってスマートに実践する」です。

【注】

タイトルの左の図は、Action for Happinessから採用した。

*マイク・エバンス博士は、リフレーム・ヘルスラボの創設者。トロント大学准教授等を経て、アップル、スタンフォード大学などの役職を歴 任。健康分野のイノベーター受賞歴多数。医師。

博士のyoutubeビデオは欧米では有名で、合計1000万回以上(運動のビデオは648万回以上)の再生実績あり。youtubeの「設定>字幕>自動翻訳>日本語」にすると、日本語の字幕でも視聴できる。

**マイケル・バビヤック他の研究は、Exercise Treatment for Major Depression: Maintenance of Therapeutic Benefit at 10 Months

***運動は、一週間に3セッション(連続16週間)のトレーナーによるエアロビクス実習。1セッションは、10分間のウォームアップ後、30分間の活発で集中的なウォーキング/ジョギング。脈拍は、最大脈拍数の70-85%以内に収まるように。その後5分間のクールダウンで終了。

****薬物療法は、(Sertraline)の服用。精神科医が、2、 6、 10、 14 そして16週目に面談後、50mgから最大200mgの投与がなされる。セルトラリンは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI) と呼ばれる抗うつ薬の一つ。日本での商品名は、ジェイゾロフト。

第5の習慣●睡眠の法則を知ってスマートに実践する

今回は、

「第5の習慣●睡眠の法則を知ってスマートに実践する」です。とても大事な睡眠のお話しです。

シェークスピアは、マクベスに、眠りの重要性を語らせています。

「これ以上眠るな!マクベスは眠りを殺した」、との叫び声を聞いたような気がする。

無邪気な眠り、ほつれた不安をほぐして編みなおす眠り、一日のおわりをつげる眠り、疲れ果てたからだを洗い流してくれる眠り、傷ついたこころを慰める眠り、眠りは、自然のなかで最も大事な過程で、人生の楽しみの最大の栄養物だ、、、、

(『マクベス』第二幕第二場より)

睡眠には、これまで分かったいろんな法則があります。

特に、ホール博士(Jeffrey C. Hall)、 ロスバシュ博士(Michael Rosbash)、ヤング博士(Michael W. Young) の3人が発見した「体内時計の分子生理学的仕組み」が2017年10月2日にノーベル医学・生理学賞を受賞しました。「体内時計」とは、昼と夜を作り出す1日の体内リズムのことです。これは、サーカディアンリズム(概日(がいじつ)リズム)と言われていますが、バクテリアを含む全ての生物に確認されています。

そこで、睡眠の第1法則は、

「わたしたちのからだは、24時間数十分(大体一日)周期で、夜眠り、朝起きる」(サーカディアン<概日>リズム)となります。

わたしたちの体の中には時間のリズムを刻む体内時計(生物時計)があります。体内時計は、脳(親時計。視交叉上核)だけでなく、内臓などの臓器や血液、筋肉や皮膚などあらゆる細胞(末梢組織)に子時計があることが分かっています。

体内時計は、24時間数十分周期で、夜眠り、朝起きる、という生体リズムをもっています。24時間数十分なので、概日リズム(大体一日、サーカディアンリズム)と呼ばれています。

夜になると眠くなるという体内時計は、朝・昼・夜の光の変化や食事、運動などによって影響を受けています。この生体リズムが崩れると、こころとからだへの慢性的なストレス、統合失調症、うつ、睡眠障害だけでなく、肥満、糖尿病、高血圧、癌などの発症や疲労の蓄積、肌の荒れなどが起こされていると考えられています。

とくに、光と睡眠の関係は大切で、朝の光がわたしたちの体内時計を毎日リセットする大事な役割を果たしています。また、パソコンやスマホの長時間使用などで、体内時計との不一致があると、いろいろな問題が生じてくるのです。

睡眠の第2法則、「ひとは目が覚めてから約15間ぐらい後に眠くなるです。

つまり、私たちが朝に起きた時間で、その日の夜の眠る時間が、からだ的には決まっているということです。ですから、いくら早く寝ようと思っても、すでに朝起きた時間によって、眠くなる時間が決まっているので、なかなか眠れないことがあるのです。その日に早く眠りたければ、その日の朝に、早起きしておくことが大切です。

たとえば、朝7時に起きると、眠る時間は7+15=22、午後10時になってしまいます。ですから、午後9時に眠りたければ、その日の朝6時に起きることが必要になります。

翌朝5時に早起きしたければ、その前日の朝に、少し早めに起きて準備をすることが大事です。たとえば、前日の朝6時に起きて、その日は午後9時に寝て、翌朝5時に起きるという作戦をとります。

睡眠の第2法則は、朝起きて日の光を浴びてから約15時間前後で眠りのホルモン「メラトニン」が増えてくることと、私たちの大脳が15時間以上使っていると疲れて眠くなることが原因といわれています。

睡眠の第3法則は、「光をうまく利用すると、よい睡眠ができる」です。

先ほど、光と睡眠の関係は大切だと言いました。適当な明るさ(照度)をみると、日中の室内で、昼が300~500ルクス、夜間が500~700ルクス程度(一般家庭の場合)になります。300ルクスは、30W蛍光灯を2灯使用したくらい(八畳間)。500~700ルクス程度は、デパートの売り場くらいの明るさです。

朝は自然光が入るよう、カーテンを10cmくらい開けておくと、目覚めも良くなります。

蛍光灯やパソコン、スマホ、LED照明には、短い波長の青い光(ブルーライト)が多く含まれ、眠りのホルモン「メラトニン」の分泌を抑制してしまいます。
なので、夜に強い光を浴びたり、スマホやパソコンのブルーライトを見続けると、目から入った光は、体内時計に直接伝えられ、昼間と勘違いされます。体内時計が遅れると、眠くなる時刻が遅くなることが知られています。睡眠の2時間前(遅くとも1時間前)までに、スマホやパソコンを見ないようにし、部屋の照明を暗めにすると、心地よい眠りにつながります。

睡眠の第4法則は、「昼寝をするなら午後3時まで、30分以内で」です。

昼食後から午後3時までの間、30分未満の規則正しい昼寝は、夜間の睡眠に悪い影響をあたえません。それだけでなく、昼間の眠気を解消して、その後の時間をすっきりするのに役立ちます。逆に、午後3時以降の昼寝や30分以上の昼寝は、夜の睡眠に影響して、寝つきを悪くします。30分以上の昼寝は、からだと脳を眠る体制にしてしまい、しっかりとした目覚めを妨げるからです。また、夕食後の居眠りは、いつもの就寝時間に眠れなくなることもあります。

最後に、良い眠りのための方法について、参考にできるガイドラインがあります。これは、国(厚生労働省)が示した12の指針(ガイドライン)です。

次回は、第6の習慣「●人生あるがままに、でもちょっとだけいいことをする」に進みましょう。

【参考】

・「生物時計はなぜリズムを刻むのか」ラッセル・フォスター, レオン・クライツマン 日経BP社

・「食べる時間でこんなに変わる 時間栄養学入門 体内時計が左右する肥満、老化、生活習慣病」柴田重信 ブルーバックス

・「睡眠と健康」 宮崎総一郎、林光緒 放送大学教育振興会

第6の習慣●人生あるがままに、でもちょっとだけいいことをする

人生あるがままに、ちょっとだけいいことをしよう。

Action for Happiness (英語)

あるがままには、「今、この瞬間に注意を払う」ことで、自分のこころの中で何が起こっているかを、判断を加えないで、意識的に、自分の感情や考えを観察すること(マインドフルネス)です。ちょっとだけいいことをするとは、いいことをしたとき、いい気分になることがあるでしょう。その自分の気持ちを拡げていくことです。ここでは、いい気分になることを説明します。

今は、落ちこんでいて、いい気分ではないよ、と言われるかも知れません。このこころの状態をネガティビティ*(negativity:悪い面だけをみるこころの状態)と呼んでいます。ネガティビティのこころの状態にあるときは、考えや気分・感情がそれに支配されて、目の前が先細りになり、まわりのことがなかなか見えてきません。自分との会話(セルフトーク)もなくなり、判断力も弱くなります。その状態から抜け出すことが、とても難しくなります。繰り返しくりかえしその感情や気分が出てくるのでやっかいです。

ネガティビティは、ネガティブな感情(negative emotions)を引き起こします。たとえば、怒り、無視、抑うつなどの気分・感情です。このネガティブな感情は、からだ全体に少しずつ浸透し、あなたのからだ自体を変化させてしまいます。胃の中が煮えたぎり少しずつ潰瘍が進むだけでなく、血圧が上がり、肩や首の筋肉が石のようにカチカチに硬くなります。顔もこわばりひきつります。そうなると、そんな表情や態度のひとを見ると、ほかの人はできれば避けたい気持ちになります。それだけでなく、ご自身は、あたかも目隠しをして丸一日を過ごすことになります。どこを見ても欠点ばかりが目について、腹の立つことばかりです。解決策は見えてきません。すべてに何ひとつ目新しさがなくなります。

反対に、良いことをしたり、されたり、見たり、体験したりしたときは、いい気分になります。いい気分になることを、ポジティビィティ(positivity: 良い面をみるこころの状態)といいます。ポジティビィティは、ネガティビティと違って、良い気分やよい感情をもたらします。たとえば、誰かからいいことをされたことがあるでしょう。そのときには、「感謝」をしますね。その感謝の気持ちが、ポジティビティで、ポジティブ感情の一つです。ひとや誰かに感謝すると、「いい気分」になりませんか。そのときには、悪くて暗い考えが変化して、前向きな気持ちに変わっているでしょう。気持ちだけでなく、考えかたも少し拡がった気がしませんか。

人生で小さなことを楽しもう。ある日、振り返ったら、それらが大きなことだったとわかるかもしれないから。

ロバート・ブロールト**

ポジティブな感情をもつと、文字どおりあなたに新しい人生観がもたらされます。すべての緑色植物の成長に、太陽光は欠かせません。植物が太陽光に向かうという向日性は、ひとにもあります。ポジティビィティは、ひとの成長にとって欠かせないものです。わたしたちはこのことを生まれながらに知っています。ひとはみな、ポジティビィティ(良い面をみるこころの状態)の方向へ向かい、自分のこころをできるだけ広げて、考え方やモノの見方を拡大しようとします(ポジティビティの拡張効果)。ただ残念なのは、ポジティビィティはデリケートで壊れやすいもので、その効果は一時的なものだということです。すぐに失われてしまう性質のものなのです。

反対に、ネガティビティ(悪い面だけをみるこころの状態)は、強力なもので長続きもするし、なくなりません。実は、私たちの脳は、良い面よりは、自然と悪い面に集中していく傾向があります。そこで、どうしたらいいでしょうか。

たとえば、よい気持ちになりそうななにかをしましょう。好きな音楽を聞くもよし、楽しいTVや映画をみてもよし、外に出て散策するのもよし、友だちに連絡するのもよいでしょう。ちょっとスマイルしてみましょう。部屋のなかを歩きながら、ポジティブな気分になることを言ってみましょう。ご老人がなにか困っていたら、手助けしてあげましょう。一日のうち、周囲のひとになにか小さくてもいいですから、なにか一つでも、親切なことにチャレンジしてみましょう。

ポジティビティを増やすためには、ポジティブ感情の強さや深さを増やすだけでなく、その感情を味わう回数を増やすことが有効です。ポジティブ感情は、感謝だけではありません。喜び、安らぎ、興味、希望、誇り、おかしさ、感動、畏れ敬う(おそれうやまう)、愛の合計10のポジティブ感情が発見されています。

10のポジティブ感情

10のポジティブ感情  どんなときに、どんな場所で   そのメリット   
喜びjoy

安全で、見慣れた所で、うまくいっている いろんなスキルを得られる
感謝gratitude

自分のために特別になにかしてくれた 社会的なつながり、愛のスキル
安らぎserenity 

    

安全で、信頼できる、努力をさほど必要としない 自分や世界の見方を変えてくれる
興味interest 

     

安全で、新しい、ミステリアスな(謎めいた) 知識やエネルギーを得られる
希望hope  

    

悲惨な環境で 行動と発見
誇りpride   

   

個人的な達成感 更なる達成感へ
おかしさamusement

まじめじゃない社会的な不調和、ともに笑う 友人関係をつくる
感動inspiration

素晴らしいことに立ち会う スキルや徳性を得られる
畏れ敬うawe  

   

規模の大きい偉大さに接する 自分が偉大な者の一部だと感じる
love   

     

安全で、人と人との結びつき 信頼、社会的絆、共同体

ポジティブな感情を生物学的に考えてみます。

私たちのからだには、新しい細胞が古い細胞に代わる新陳代謝という働きがあります。ポジティビティは、新たな細胞の成長を促す一方、ネガティビティは、細胞の劣化を進めることが科学的に証明されています。

最後に、ポジティビティというこころの態度を習慣にするには

・オープンであること

・感謝のこころをもつこと

・好奇心をもつこと

・親切であること

・誠実であること

が必要だと言われています。

次回は、自信回復7つの習慣の最後、第7の習慣「●立ち直るための工夫をする」です。

【注】

*ネガティビティのときには、特別なネガティビティのメガネをかけているように、世の中のポジティブなことや明るいことが見えなくなっている(こころのフィルターmental filterがかかっている)。それだけでなく、何でもないことや良い出来事を悪い出来事にすり替えてしまうポジティビティの取上げdisqualifying the positiveや、感情による理由づけemotional reasoningがある(それぞれ認知の誤り)。感情による理由づけとは、たとえば、「私はダメ人間のように感じる。そう感じることが、ダメ人間の証拠だ」とか、「もう何の希望もないように感じる。だから、今の私の問題はまったく解決できない」といったように、今の感情を絶対化して、それを根拠に自分をマイナスに判断してしまうこと。感情は、ある意味で、とらえ方によってかわるということ。とらえ方によるとは、出会ったできごとや考え方をどう解釈するか、ということが分かれば、感情を決めつけないで、ポジティブな感情へ転換することも可能になる。

**ロバート・ブロールト(Robert Brault)(英語)50年以上にわたって、米国の一流雑誌や新聞へ寄稿しているフリーランス作家。彼の言葉はいろんなところで引用されている。

【参考】

Barbara Fredrickson (2009) “Positivity: Groundbreaking Research Reveals How to Embrace the Hidden Strength of Positive Emotions, Overcome Negativity, and Thrive”

「ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則」バーバラ・フレドリクソン

「いやな気分よ、さようなら―自分で学ぶ「抑うつ」克服法(増補改訂 第2版)」デビッド・D・バーンズ

第7の習慣●立ち直るための工夫をする

自信回復7つの習慣の最終回は、「●立ち直るための工夫をする」です。

立ち直るための工夫とは、自分を変えるための実行可能な工夫のことです。では、自分を変えるには、どうしたらうまく行くのでしょうか。

ステップごとに少しずつ自分を変えること、そして、「自分ならできる、きっとうまくいく」と思えるこころの状態(self-efficacy:自己効力感)まで自分をもっていくことです。

では、まず、自分を変える5つのステージを見てみましょう。

1つ目のステージ(S):変えようとするつもりもないし、その意識もないとき。

2つ目のステージ(S):変えようかと思っているけど、心の準備がないとき。

3つ目のステージ(S):変えようと思って、その心の準備ができているとき。

4つ目のステージ(S):変えようと取り組み始めて6ケ月以内のとき。

5つ目のステージ(S):変えようと取り組み始めて6ケ月以上のとき。

それぞれのステージ(段階)でどうやったらいいかを考えてみましょう。

1S:本人にその気がないのですから、周りや支援者が、変えようとするその分野の簡単な知識を与えたり、関連の情報、インターネットでの情報収集や、本などを読むことを勧めます。たとえば、運動不足のままでいると、将来どうなるのかを考えてもらいます。逆に、運動するとどう自分が変わるのかをイメージしてもらいます。たとえば、不健康な生活を今のように続けていると、家族や友人との関係がどうなるのかを考えてもらったりします。周りや支援者は、本人が今の行動や習慣を変えないと、将来どうなるのか、引き起こされる結果を丁寧に、でも強制しないように伝えることになります。

もし本人が、少しでも変えてみようかなと思ったとしたら、次のステージを考えてみます。

S:変えようかと思っているけど、心の準備がないときとは、本人が自分の心身の改善について、本やインターネットで情報収集したり、専門家に相談したりする段階です。たとえば、喫煙者が、禁煙しようと決心し、禁煙外来や禁煙グッズなどの利用方法や費用を調べたり、禁煙成功者の体験談を読んだりする時期です。あるいは、ストレスを感じている人が、ストレスマネジメントの方法を学ぶためにセミナーや講座に申し込んだり、本やDVDなどの教材を購入したりする段階です。この段階では、周りや支援者は、具体的な行動が取れるよう支援します。たとえば、運動不足の場合、運動教室や、身近にできる散策コースなどの紹介や、車でなくできるだけ歩いたり、エレベーターでなく階段の利用をそれとなく一緒にしたりします。

Sこの段階では具体的で達成可能な計画を作る段階です。前段階のSやこの段階では、変えるための「動機づけ」が一番大事になります。動機づけとは、自信とやる気を出させることです。動機づけに最も関係するのが、セルフエフィカシー(self-efficacy)です。これは、自己肯定感や自己肯定力と呼ばれています。「自分のことが好き」「自分は価値のある人間で、生きていく価値のある人間」「自分のことを良いところも悪いところもそのまま受け入れられる」「自分は愛される価値もあるし、愛される力もある」と思うことですが、日本の小中高生は、海外の小中高生に比べて、この自己肯定感が低いことが知られています。大人の場合も、海外にくらべて、自己肯定感が高いとは言えないようです。

自信とやる気には、結果予期と効力予期が関係しています。

結果予期(横軸)とは、「この行動を取ったらどうなるかなあ」ということです。たとえば、禁煙するという行動をとったら、自分の健康にプラスになるだろう、との推測(やる気が出る)をすることです。

効力予期(縦軸)とは、「やった方がいいと思うけど、自分にできるかな」というです。たとえば、禁煙した方がいいと分かっているけれど、実際に禁煙できるかなと自分で予測する(自信をもつ)ことで、これは「自己効力(感)」といわれるものです。人が行動を起こしやすいのは、結果予期よりも効力予期が高い方が効果的だと実証されています。

結果予期がプラス+とマイナス-、効力予期がプラス+とマイナス-で、4つの種類があります。

Ⅰ自信もやる気もある

Ⅱ自信がないがやる気はある

Ⅲ自信があるがやる気はない

Ⅳ自信もやる気もない

図には、それぞれの場合、どのような対処ができるかが示されています。このうち、Ⅱの自己効力(感)を高めるにはどうしたらいいでしょうか。

「モデリング」、「シェイピング」、「リフレーミング」などの方法があります。

モデリングとは、自分と似たような状況で、そのような人になりたいなと思えるモデルを探し、その人の行動を取入れることや、似たような境遇をもった人の成功体験や問題解決方法をきくことです。

シェイピングとは、できない(変わりたい)行動を、やさしいものから望む行動へと、小さいステップに分けて達成していく(スモールステップ)方法や、段階的にやさしいことから難しいことにチャレンジする(ステップバイステップ)方法があります。

たとえば、子どもへの靴下のはき方をやってみましょう。最初は、こちらではかせてあげてそこから少しだけ引き上げさせます。次に、くるぶしのところまではかせて、そこから上げさせます。次は、つま先まではかせて、そこから引き上げさせます。最終的に、足元に靴下をおき、それをはけるように、小さいステップに分けて習得させます。また、たとえば、寝たきりで歩けないときは、ベッドを〇度の状態で〇分保持できるようにする。次に、ベッドの上で上半身を起き上がらせて、〇分くらい座っていられる。そして、ベッドに手を置いて立って〇分保持する。つぎに、杖をつかんで立ってみる。そして、杖歩行にチャレンジする。。。。などのステップバイステップの方法があります。このように、自分が変えたい行動を、すぐには完全にできませんので、その行動を小さいステップに分けて達成したり(スモールステップ)、段階的にやさしいことから難しいことにチャレンジする(ステップバイステップ)方法をとれば、難しい行動も少しずつできるようになります。

 リフレーミングとは、視点を変えて、新しい意味づけをすることです。たとえば、仕事で忙しくストレスだらけになっているときに、この仕事は、自分を成長させ新しいスキルを学べるいいチャンスだと、仕事への意味づけを変える(リフレーミング)ことや、あなたを傷つけた人に怒ったときに、これは許しや思いやりを学ぶチャンスだと考えなおす(リフレーミング)ことなどがあげられます。

これらの方法を活用して、小さな達成感や成功体験を積み重ねながら、自己効力感を高め、自分を変えていきます。

S:この段階は、行動を変えることに取り組んでいる状態です。このステージにある人は、行動を変えるために具体的な方法や計画を実践していますが、まだ習慣化されていないため、逆戻りのリスクが高いです。この段階では、周囲からの言葉での励まし、手伝ってくれる人がいるかなと考えたり、一緒にやってくれる人を探したりします。また、ある程度のことができたら、自分にご褒美を与えたり、事前に、周りや家族に「これをやるよ」と宣言することも有効でしょう。運動の場合は、目立つところに運動用のシューズや用具、スポーツウェアなどをおき(刺激コントロール)、気持ちを高めることも役に立つでしょう。

S:この段階では、後戻りの防止を重点的に行います。たとえば、社会的支援(ソーシャルサポート)の強化、変える努力をしている本人へのほめることも効果的です。リラクゼーションやポジティブシンキングなども並行して学んでいきます。

自信回復のための7つ目の習慣「●立ち直るための工夫をする」では、動機づけ、一人で習慣化することが難しいので、周りの家族や友人、施設の支援者の方々など、社会的な支援(ソーシャルサポート)の大切さのお話をしました。「よい習慣づくりには、よき友がだいじ」(日野原重明)です。

Sources:

・中央の写真は、カナダ人心理学者アルバート・バンデューラAlbert Bandura(1925年12月4日- – 2021年7月26日)。自己効力感や社会的学習理論で知られている。

「生活習慣病」がわかる本 日野原重明 ごま書房

Self-Efficacy Albert Bandura Stanford University 1994

糖尿病患者のセルフマネジメント教育: エンパワメントと自己効力 安酸史子 メディカ出版

呼吸器疾患患者のセルフマネジメント支援マニュアル 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会/日本呼吸理学療法学会/日本呼吸器学会

行動変容ステージモデル(厚生労働省)