コンサルタントの業務をやっていると、どうも、メンタルヘルス的に変調をきたしているようだな、と思える経営者や会社員にも出会います。そこで、少しこの分野を研究しようと、国内で出版されている「対人関係療法(IPT)」の本を数十冊読んでいたら、知人のオーストラリア人から、「IPTに興味あるんなら、オンラインでやっている大学があるよ」との情報を得て、シドニー大学生涯教育センターにたどり着きました。心理・精神療法は世界中にほんとにたくさんありますが、科学的根拠(Evidence-Based Therapy)を持つ心理療法はそれほどなく、認知行動療法(CBT)や対人関係療法(IPT)などが代表的です。シドニ―大学は、豪州で最古(1850年設立)の大学で、医学や健康科学にも実績があるようです。
コロナの影響もあり、キャンパスとオンラインの両方でIPTコースが開講しているということで、これはラッキーだと思い、まず、センター事務局に受講資格をたずねると、精神科医や臨床心理学者でなくても、興味のある方がたに幅広くオープンにしており、歓迎します、との返答があり、早速、受講登録をしました。
講師は、IPT Institute (対人関係療法研究所、IPTの国際的認定機関)の所長、Scott Stuart, MD氏で、テキストは、Interpersonal Psychotherapy 2E A Clinician’s Guide 2nd Editionでした。
コースは、Level A:Basic (入門編)で、3分の2が講義で、残りが演習形式でした。
参加者は27名で、大まかですが、半数がSW(ソーシャルワーカー)、精神科医と臨床心理学者が数名ずつ、残りは、看護師や医療関係者とその他(私)といった感じで、シドニー在住者がほとんどでした。
全員の自己紹介を経て、IPTの理論編の講義からスタートしました。
箇条書きで特長を書くと、
- IPTは固定的な療法ではなく、実証的な研究方法で日々進化している。
- 「医学モデル」(古典的IPT)から、「生物心理社会/文化/スピリチュアルモデル」へと変革している。
- 理論的支柱は、「アタッチメント理論」、「対人関係論」、「社会理論」から来ている。
- IPTの手法(tactics)として、「対人関係調査図(Interpersonal Inventory)」、「対人関係問題エリア(対人関係の不和、役割の移行、悲哀と死、対人関係過敏/欠如)」、「現状分析と治療方針(Interpersonal Formulation」、「IPTの構造(短期間時間制限の療法。10-20セッションと継続療法その他)」
- IPTの技法としては、「共通な面接技法(ロジャーズのように暖かく、共感的で、正直誠実な、無条件のポジテイブな心遣い)」、「コミュニケーション分析技法」、「具体的不和の会話分析(Interpersonal Incidents」、「問題解決(Problem Solving)」、「ロールプレイング」がある。
特に、患者の役割(sick role)のデメリットを克服するべき、2.「医学モデル」から、「生物心理社会/文化/スピリチュアルモデル」へと進化したこと、アタッチメントスタイル(ボウルビー3象限➡とバーソロミュー・ホロビッツの4象限モデル)の重要性とコミュミケーション戦略との関わりあいを強調されていました。
以降、詳細内容に進んで行きます。
「医学モデル」では、症状の背後にある病気を診断し、診断に基づいて有効な治療法を選択し、病気を治療しようとします。言いかえれば、うつなどの症状は、患者が抱えている病気(障害)から直線的に引き起こされるものであり、医師等が個別的に治療をする、というモデル(考え方)です。多くの身体的な疾患ではこのモデルは有効に機能している、と言われています。
当初のIPT(講師Scott氏は、「classic IPT」と表現されていました。)では、「医学モデル」に沿って、患者に、「病者の役割」を与えていました。つまり、医学的に病気なのだから、しばらくの間、患者は人生の責任から免除され、変化の責任を引き受ける前に他人に許可されて回復するように治療されるべきだ、と患者には指示されます。患者が「病者の役割」に同意しようがしまいがお構いなしでした。患者の経験についての協同的な理解を進めていくよりも、むしろ単純に「病者の役割」を押しつけただけでした。
この時代遅れの生物学的疾患モデル(医学モデル)によって、少なからずの問題が生じます。医学分野は全体として、病気や機能障害についてより幅広い見解をとってきています。たとえば、糖尿病は、もはや単に『生物学的疾患』としては見られていません。そのかわり、心理学的、社会的機能、文化的、スピリチュアル的要因の文脈で理解されています。特に2型糖尿病は、飲食行動を引き起こす心理学的要因や治療にかかわる文化的影響が病気の発生や継続に、非常に重要なことが知られています。
精神医学的な病気も同じです。糖尿病のように、うつ病や他の精神疾患も生物学的基盤は疑いないことですが、と同時に、社会的・文化的文脈の中に組み込まれていて、心理学的・スピリチュアル的な意味に満たされています。患者に対して、制限された時代遅れの「病者の役割」を押しつけることは、患者自身のユニークな個人的経験を無視し、害とも言えます。より危険なことは、病者の役割をもつことで、治療を「座って待つ」ことを強い、彼(女)自身の社会的環境内での変革や対人関係の変化を促す責任をとることが難しくなることです。患者自身の回復に積極的になるというエビデンスに、「病者の役割」は相反しています。そこで、「生物心理社会/文化/スピリチュアルモデル」へと進化したわけです。なお、講師Scott 氏は、患者とクライアントの用語を半々で使っておられました。
説明が長くなったので、他の重要な「アタッチメント(愛着)理論」へ行く前に、最初の演習について話しましょう。
インテ-ク(初回面接)のときに、「対人関係調査図(Interpersonal Inventory)」を作成してもらいます。対人関係調査図は、対人関係の焦点の置き換えが脅かされたときに、対人関係療法の治療プロセスを照らし出してくれる灯台のようなものです(参照:タイトルの下の左図)。クライアント(患者)の社会的なネットワークの概略図で、「対人関係サークル図(Interpersonal Circle)」を使用します。同心円を2つ書いた図で、◎の大きい図です。(参照:タイトルの下の右図)中心の円に最重要人物=最も身近にサポート(援助)してくれる人の名前(間柄)を、中心円の次の円に密接にサポート(援助)してくれる人物を記入します。円外には、ネットワークに入らない人ですが、やはりサポートしてくれる人(拡張援助者。家族など)を書きます。あくまでも、クライアント(患者)が、誰を、どの円に記入するかを決定します。この対人関係調査図の記入に際しては、対人関係問題、コミュニケーション、ナラティブ、アタッチメントスタイルなどを参考にしてもらいます。ナラティブとは、クライアント(患者)自身を人生の専門家と位置づけ、個人の語り(ナラティブ)こそ現実、とみなして重視することです。
演習ではまず、講師のScott氏が、自身が作成したInterpersonal Inventoryを提示し説明します。その後、2人x14組(合計28人、講師含む)に分かれ、それぞれ、治療者とクライアント(患者)の役割で、面談をしながら、各自のInventoryを作成します。その後、立場を変えてトレーニングが進められました。Inventory作成時の話の引き出し方なども具体的質問方法などアドバイスされました。
次は、IPTの理論的支柱である、「アタッチメント理論」、「対人関係論」、「社会理論」の概略を説明します。
今回は、IPTを支持する中核理論の「アタッチメント(愛着)理論」です。ジョン・ボウルビィ(John Bowlby、1907年2月26日-1990年9月2日)が確立したもので、メアリー・D・エインスワース(Mary Dinsmore Salter Ainsworth、1913年12月1日-1999年3月21日)らが発展させた理論です。幼児と母親とのアタッチメント(愛着)行動の研究調査から始まり、現在では成人のアタッチメント(愛着)スタイルの理論が揃っています。Scott Stuart博士の講義では、バーソロミュー・ホロビッツの4象限モデル(参照:タイトルの右図)を使っての説明がなされました。臨床現場で有効だと立証されている、ということです。
横軸に『自己評価』(I’m OK.「自分は大丈夫」⇔I’m NOT OK.「自分は大丈夫でない)、縦軸が『他人への評価』(You’re OK.「あなたはOK」.⇔You’re NOT OK。「あなたはOKでない」)。4象限で4つのアタッチメントスタイルになります。
タイトルの右図のように、左上から時計回りに、「安全・安心型」、「不安・心配型」、「恐れ・不信型」そして「拒絶・回避型」です。治療者(セラピスト)は、安全・安心型のポジションで、クライアント(患者)がその他の3つのスタイルが一般的です。アタッチメントスタイルは、継続しやすい傾向がありますが、固定化はしない、と説明がありました。
講義では、実際の面談ビデオを視聴しながら、治療者とクライアント(患者)の一挙手一投足をprobe(観察)することになります。区切りのいいところで、講師から受講生へ質問が投げかけられます。たとえば、「クライアント(患者)の感情は?」「クライアントのアタッチメントはどうですか?」などなど。受講生からは、積極的な反応がなされました。
「アタッチメント(愛着)理論」が幅広い、マクロな社会的文脈で記述するのに対して、「対人関係論」は、個人間でのミクロなコミュニケーションを記述します。両理論は密接な関係があり、対人関係論は、クライアント(患者)の不適応なコミュニケーションパターンが、「今-ここ」での対人関係の困難を引き起こすと考えます。「社会理論」は、社会的援助のインパクトを理解するのに有効な方法ですが、上記2理論と比較すると重要性は小さくなります。
次は、「現状分析と治療方針(Interpersonal Formulation)」と合わせて「IPTサマリー(治療計画)」の説明に入ります。
注1)バーソロミュー・ホロビッツの4象限モデル
Kim Bartholomew & Leonard M. Horowitz (1991) “Attachment Styles Among Young Adults: A Test of a Four-Category Model”
注2)タイトルの「人工代理母親への子ザルの実験」(米心理学者ハーローH.F.Harlow)の写真は、Atkinson & Hilgard’s “Introduction to Psychology (14th Edition)” p90から引用した。©Martin Rogers/Stock Boston
IPTの構造(IPT Structure タイトル上図)にあるように、治療プロセスは、4期に分けられます。アセスメント/初期フェーズ(1-3セッション)、中期フェーズ(4-12セッション)、終結期(1-4セッション)、および継続治療期です。
対人関係療法(IPT)の原則は、治療者(セラピスト)がIPTをクライアント(患者)に施すことではありません。その代わりに、クライアント(患者)とともに、IPTをすすめるのです。対人関係療法は、傾聴と指示のあいだの創造的な緊張を伴ったもので、クライアント(患者)に適するように仕立てるべきです。固定的で柔軟性のない治療法(セラピー)であってはいけません。
さて、「アセスメント/初期フェーズ」では、精神医学的な評価を完成すること、「対人関係調査図(Interpersonal Inventory)」と「現状分析と治療方針(Interpersonal Formulation)」および「IPTサマリー」を、クライアント(患者)と一緒に、協同作業として、作成することです。 とくに、アタッチメントの評価については、クライアント(患者)自身に直接質問をしたり、他者からの情報、共感的な、時折指示的なProbes(探索法)により行います。
「対人関係調査図(Interpersonal Inventory)」は、前々回ふれましたので、「現状分析と治療方針(Interpersonal Formulation)*」および「IPTサマリー」について説明しましょう。
対人関係フォーミュレ―ション(Interpersonal Formulation*)は、対人関係の「現状分析と治療方針」をまとめたものです。「医学モデル」ではなく、「生物心理社会/文化/スピリチュアルモデル」でまとめあげたものです(上図)。同モデルに基いて、「生物学的要因」、「社会的要因」、「心理学的要因」、「文化要因」、そして「スピリチュアル要因」ごとにまとめていきます。それぞれの中身は、図を参考にしてください。
「生物学的要因」には、年齢や性別、子供、過去の病歴などが入ります。「社会的要因」では、既婚かどうか、配偶者や両親が手助けしているかどうか、身近な人と不和がどうかなどを含みます。「心理学的要因」とは、アタッチメントスタイルはどうか、パーソナリティ面での特長などを記入します。「文化要因」では、伝統的な性別の役割、家族重視かなど文化的面を含みます。そして「スピリチュアル要因」は、宗教や人生の価値観などです。
これらの「生物心理社会/文化/スピリチュアル」面が、個人に影響を与えて、対人関係の危機が起こり、IPTでは、3つの対人関係問題エリアを設定しています。対人関係の不和、役割の移行、悲哀と死、の3エリアです。この対人関係問題エリアは、単一であるというよりも、複数のエリアが混在する場合が多いので、エリアごとに、具体的な項目をあげます。たとえば、対人関係の不和-妹、役割の移行-出産後、悲哀と死-不妊、などです。
「現状分析と治療方針(Interpersonal Formulation*)」を作成したら、初期フェーズのまとめとして、「IPTサマリー」(上図)の作成に入ります。「IPTサマリー」は、「現状分析と治療方針(Interpersonal Formulation)」を受けて、心の不調となる原因を4つほど挙げて、本人の強み(Strengths)とともに、治療計画の目標をかかげたものです。
この「IPTサマリー」をもとに、中期フェーズへと進んでいきます。中期フェーズでは、各対人関係問題エリアに適する手法、たとえば、「タイムライン」や「不和グラフ」などを活用し『心の見える化』を図り、3S(心の整理・整頓・清掃)を促したうえで、新しいアタッチメントや社会援助の方法などを考えていきます。
注)「対人関係調査図(Interpersonal Inventory)」、「現状分析と治療方針(Interpersonal Formulation)*」および「IPTサマリー」は、講義で使用された資料を一部改変して作成している。
*なお、認知行動療法(CBT)では、Formulation (フォーミュレ―ション)の訳語としては、「問題の成り立ちを説明する仮説」であり、介入方針を定めるための作業仮説となるもの、との定義がある。(「改訂版 認知行動療法」2020年放送大学教育振興会)
前回を振り返りましょう。「アセスメント/初期フェーズ」では、「現状分析と治療方針(Interpersonal Formulation)」および「IPTサマリー」を協同で作成しました。初期フェーズの終わりには、一般的に治療上の考慮をします。たとえば、もし、クライアント(患者)に強迫観念的な症状があるとしたらCBT (認知行動療法)が適用できるかどうか、彼(女)の養育歴や慢性病の母親との関係を考えると、精神力動的療法はどうだろうか、家族療法はどうだろうか、などを考慮します。そして、クライアント(患者)の抑うつ症状の緩和には、「対人関係療法(IPT)」がより適合すると判断し、治療方針にクライアントの合意が得られたら、正式な「治療契約」を結び、中期フェーズへと進みます。ちなみに、対人関係理論における、アタッチメントとコミュニケーションの関係は、下図を参照ください。
IPTについての第5回目は、前回までの「アセスメント/初期フェーズ」に続いて、「中期フェーズ」に入り、3つの対人関係問題エリア(対人関係の不和、役割の移行、悲哀と死)に集中することになります。
「対人関係の不和」について、「対人関係不和グラフ」を用いて、クライアント(患者)の心を見えるようにします。縦軸に「問題の大きさ」を、横軸に「関係の重要さ」(図参照)を考えます。
まず、クライアント(患者)に、不和の相手に対して、自分自身が思っている、「関係と問題」について、どのあたりにあるかをプロットしてもらいます。次に、相手が自分をどう思っているか、を推測してもらい、プロットしてもらいます。
治療者は、どこに不和があるのかについて、不和の関係にある2人の具体的な日常会話の中から、見出していきます。たとえば、クライアント本人が、そのメッセージを的確な言葉で伝えていないのではないか、あるいは、不和の相手に対して、本人の期待が非現実的ではないのか、という視点でとらえ、両者間の関係-問題のギャップを縮めるようにします。具体的なメッセージのサンプルをいろいろ提供していきます。そして、何度もロールプレイで練習させて、頭だけでなく、具体的に、その場で応用できるようにトレーニングを進めていきます。対人関係コミュニケーションにおいては、友好的か―敵対的か、支配的か―従属的かによって、アタッチメントのスタイルが決定されることが多いですが、ここでは、その詳細にはふれずに、より効果的に相手の支援が得られるような、コミュニケーションの一般的なやり方(コミュニケーション分析)を5つあげて、「役割の移行」と「悲哀と死」で用いられる「タイムライン」手法へといきましょう。
効果的なコミュニケーションの方法:
- 思いやりをもって頼む
- 現実的なことを頼む
- 自分が必要としていることを説明する
- なぜそれが必要かを説明する
- 手助けができる人に頼む
「役割の移行」とは、2つの側面があります。1つは、ライフサイクルでの役割の移行(青年期、出産、閉経期・更年期、身体能力の低下)、もう一つが、社会的な役割の移行です。就学、結婚、離婚、移転、同性愛の公表、雇用、失業、引退、移民、転勤、配置転換などなどです。
別の面からみると、
変化への適応(新しいアタッチメント、新しい社会的支援、自分自身や他人への現実的な期待)と変化についての両義性(アンビバレンツ)、つまり、感情を引き出すことが課題となります。
「対人関係の不和」でのコミュニケーション分析にあたるものが、「役割の移行」では、タイムラインでのクライアント(患者)の役割移行やナラティブ(ストーリー)の整理と感情の3S(整理整頓清掃)、新しいスキルの獲得、そして新しい社会的援助の開発・関与への治療者からの手助けとなります。
「役割の移行」と「悲哀と死」で共通して用いられるのが「タイムライン」です。何のきっかけで、心が不調になったのかを「見える化」するためです。クライアント(患者)の複雑なナラティブ(ストーリー)を整理して、本人に分かりやすく図式化します(下図参照)。
さて、IPT Basicの旅は、終着駅に近づいています。今回では、「中期フェーズ」の残りの対人関係問題エリアの『悲哀と喪失』、そして「終結期」および「継続的治療」を概略したあとで、「まとめ」へ邁進していきます。
「悲哀と喪失」にはいろいろな形があります。悲哀と死別の経験もそうですし、病理学上の悲哀(たとえば、不妊など)もあります。遅れてきた悲哀反応もあれば、人生での新しいコンテクストで経験された悲哀や喪失、たとえば、子供を亡くす、親と死別する、自然災害や事故による悲哀や喪失などもあります。
「悲哀と喪失」の治療目標としては、1.喪(悲嘆)プロセスを促進する、2.カタルシス(抑圧された心的外傷体験、感情を発散させ、心を浄化すること)、3.受容をうながす、4.喪失感を正常化する、などがあげられます。そのために、深く悲しめるような「安全・安心な関係」を創りあげる、ともにいる(受容的沈黙)、「役割の移行」で用いた「タイムライン」を参考にしながら、「どんなことが起こりましたか、どんな風に感じましたか」と問いつつ、その経験の浄化をはかる、浄化した気持ちをそのまま「封じ込める(containment)」、社会的な援助経験を拡大して「孤立」を軽減する、支援のためのアタッチメント・ニーズを満たす、などの方法で、クライアント(患者)をサポートします。
対人関係問題エリアだけでなく、IPT全般に用いられる手法の原則は、
- 協同的であること(一緒に治療をすすめていく)
- こころや頭にあることを書き出すこと(対人関係調査図(Interpersonal Inventory)、タイムライン、対人関係不和グラフなど)
- オープンに話し合うこと、
- 傾聴(対人関係問題の同定、認知期待の探索・明確化)と指示的(問題解決、提案の実行、評価・修正、実行)の繰り返し、となります。
さて、「終結期」のゴールとしては、治療が上手く終了する、治療効果が独立したかたちで機能するように促す、クライアント(患者)の治癒能力を高める、治療外でもアタッチメント・ニーズが満たされること、になります。そのために、治療終結のための明確な話合いが必要になります。その戦略は、1.もしその治療がうまくなされた場合は、治療者に対してのアタッチメントが起きるべきであり、2.治療者自身の感情について、オープンであってもいい、3.もし必要なら、治療に戻る(継続治療)という計画をなすことになります。それ以外の課題としては、クライアント(患者)が得たスキルを誠実に積極的に実行する、クライアント(患者)のフィードバックをレビューする、将来起こりうる問題を想定する、将来の治療計画に合意する、ことが終結期の戦略としてあげられます。
まとめ
Scott Stuart医学博士による、IPT Basicトレーニングは、2020年7月11日(土)の午前9時から12時30分(現地時間。日本時間は、午前8時-11時30分)にスタートして、計4週間(7月18日、25日および8月1日)にわたりオンラインで開催されました。毎週、予習・復習・宿題(任意)があり、奥の深い研修トレーニングでした。演習(宿題)は、対人関係調査図(Interpersonal Inventory)やタイムラインの作成、インタビューの方法などです。
受講後には、かなり専門的で有意義な理解度テスト(80問近くありました)が実施されました。
備忘録として、研修時の配布資料、テキスト、講義内容に基づき、当ブログの内容を作成しました。文責はブログ著者にあります。もし質問、関心等ございましたら、気軽にご連絡いただければありがたいです(「コメントを投稿する」で)。
IPTの進化が楽しみです。
注1)オンライン研修の画面は、プライバシー保護のため、ぼかしてあります。
注2)テキスト執筆者のプロフィールは、こちらです。Scott Stuart, MD(当講師、画面の2番目の人。現在は、アイオワ大学名誉教授)および Dr Mark Robertson
注3)Scott Stuart博士のYoutube ビデオ(冒頭に出てくる彼女の治療ビデオが再三講義で使用されました)。