心理・精神療法のいろいろ

心理・精神療法はいろいろありますが、実証的に、あるいは、科学的根拠をもった心理・精神療法を見てみましょう。

エリスの理性感情行動療法(REBT論理療法)

たとえば、これまで自信があったのに、「あること」がきっかけで、自信がなくなってしまい、どうしたらここから抜け出したらいいんだろう、とお悩みの人のためのお話です。

きっかけになる「あること」(ライフイベント)とは、たとえば、試験に不合格になった、仕事で業績が悪くなった、昇進した、家庭内での不和や職場での対人関係でうまく行かなくなった、病気になった、近親者の死亡、引越しなどなどです。

自分が知らない間に、自信がなくなっていると気づくと、ゆううつな気分になり、自分の能力を疑い、活動する意欲がなくなり、将来に対する不安も出てきます。気がつくと、言葉や笑いも少なくなり、人によっては、食欲がなくなったり、眠りも浅くなったり、からだも重く感じられることもあります。

今まで自信をもって、生活、仕事をやってきたのに、なぜ、こんなにゆううつな気分になり、自信喪失になり、自分に対する価値がなくなり、もともとあった自尊心が崩されてなくなっているんだろう、と考えてしまいます。

自信の積み重ねで、自尊心が育まれ、自分にはこのようなことがうまくできるといった自己効力感が出てきます。ところが、ゆううつな状態になると、つぎのときにも、またうまくいかないのではないのか、また失敗するのではないか、といった漠然とした将来への不安がつきまといます。そうすると、今までの積極的な取り組みがなくなって、悪循環に陥ってしまいます。

この悪循環の鎖を断ち切る方法に「心理(精神)療法」とよばれるものがあります。

心理療法とは、特定の心理/精神理論を作った創始者や学派に基づいて、セラピスト(心理療法の実践者)とクライエント(サポートを受ける人)が一緒にこころの不安や不調を和らげたりして、クライエントの問題を解決していく方法です。現在では、一つの理論や技法を用いるというよりも、複数の理論や技法を組みあわせて、多元的に活用する統合アプローチやクライエントに最適の技法選択を導き出す折衷アプローチが一般的になっています。

とくに、近年では、科学的に検証され、効果が上がっている心理療法が、エビデンスベーストアプローチ(EBA)としてあげられており、CBT(認知行動療法)やIPT(対人関係療法)などが代表的です。

EBAで効果があるという心理療法をどのように進めるのか、これから見ていきましょう。

1つ目の方法は、自分のものごとへの考え方、受け取り方、意味づけに焦点をおくやり方です。このものごとへの考え方/受け取り方や意味づけのことを「ビリーフBelief」と呼んでいます。

自信がなくなって、不安になっている状況を考えてみましょう。なんらかの「きっかけ」を思い起こします。たとえば、試験に不合格になった、仕事で業績が悪くなった、という出来事がありました。

この出来事が、直接、自信喪失や不安に直結する、つまり、原因(きっかけ)があって、結果(自信喪失や不安)が起きた、と考えないわけです。これはどういうことかというと、

きっかけと結果の間に、自分の受け取り方/考え方(意味づけ)があって、「きっかけ」⇒「ビリーフ」⇒「結果」と考えるわけです。

このビリーフには、合理的なものと不合理的なものがある、と考えます。

不合理的な考え方に染まっていると、仕事の業績が悪くなった(きっかけ)⇒自分の立場では、業績を達成しなければならない、もちろん仕事はチームでやっているけれども、責任は自分にあり、その責任をとるべきである。業績を達成できなかった自分は、無能であり、価値がない(不合理なビリーフ)⇒自信喪失や不安(結果)、となります。

では、反対に、合理的な考え方では、どうなるでしょうか。このような考え方もできそうです。

仕事の業績が悪くなった(きっかけ)⇒自分の立場では、業績目標があるけれども、当社を取り巻く環境(マーケット)の落ち込みもあるし、自分としてはチームの中で精いっぱい業績向上に努めてきた。その努力は、上司も認めてくれるだろう。だから、達成できない自分が、即無能とばかりは言えないだろう。業績が達成されなくても、会社がつぶれることはないだろうし、心機一転、上司に相談しながら、来期に向けて目標を設定しよう。(合理的なビリーフ)⇒業績未達成は悔しいけれども、反省をしながら、今後も前向きに仕事に取り組もう(結果)、となります。

この考え方では、実際にどのように使っていくのでしょう。

最初の不合理な考え方に自分を直面させて、それを合理的(論理的、現実的かつ有効的=役立つかどうか)に問い詰めて、自分自身を納得させていきます。

たとえば、不合理なビリーフに対して、

・業績を達成しなければならない⇒できるなら、業績を達成出来ることになるといい。

・責任は自分にあり、その責任をとるべきである⇒責任は自分にあるが、その責任を全面的にとるということではなく、チームの一員としてしかるべき責任はあるので、今後にその回復のために尽力する。

・無能であり、価値がない⇒これまで実績を積んできたので、必ずしも自分は無能ではなく、価値がないとは思わない。

このように、悪循環に陥る不合理的な考え方に巻き込まれないように、合理的に考えることで、今までの自信を回復させ、生き抜いていけるようになります。

この方法ではまだまだ自信回復しないよ、という方のために、次回以降、2つ目、3つ目と、別の進化した心理療法を検討していきましょう。[α]

【参考】論理療法―自己説得のサイコセラピイ(アルバート・エリス)

認知臨床心理学入門  (ウィンディ・ドライデン)

ガイドブック心理療法  (ステファン・パルマー)

カウンセリング/心理療法の4つの源流と比較 (ウィンディ・ドライデン、 ジル・ミットン) 他

ベックの認知行動療法(CBT)

さて、前回の方法では、まだまだ自信が回復しないよ、という方々には、2つ目の方法を検討してみましょう。

はっきりしたきっかけがないか、いろいろなきっかけが混ざり合ってはっきりしないけれども、自分自身、自分を取り巻く世界(経験)や自分の将来について、否定的なビリーフ(考え方、解釈の仕方、意味づけ、認知の仕方)が現れる場合です。これは、自分は不完全で、人から拒絶されていると思ったり、自分を取り巻く世界には克服できない障害があると思ったり、今後、困難や苦悩はずっと続いていくので、自分はきっと失敗するだろう、と考えるもので、このようなネガティブな考え方によって、自信を失うというものです。

否定的な考え方(ビリーフ)は、前回[α]で取り上げた「不合理なビリーフ」に似たところがありますが、この方法では、ビリーフを表層と深層の2層に分けて考えます。表面的なビリーフと深く自分のこころに巣くっているビリーフの2種類です。表面的なビリーフとは、失敗した(きっかけ)⇒この仕事・課題は難しい、自分には無理だ、といったように、あるきっかけで頭の中に浮かぶ考えやイメージのことで、深く考えるまでもなく半ば自動的に起きるビリーフです。

2つ目のビリーフは、1番目のビリーフを形作っているもので、深く自分のこころに巣くっていて、普段の生活ではなかなか見つからないビリーフのことで、深層にある思い込みで、「スキーマ」といいます。小さい頃から形作られた自分、将来、周囲への否定的な考え方(ビリーフ)のことです。この深層にある思い込み(スキーマ)が、大人になったときに、その思い込みと同じような出来事に出くわすとその深層の思い込み(スキーマ)が刺激され、活性化されて、自信をなくし、うつや不安に陥ることが知られています。

深層にある思い込み(スキーマ)からは、いろいろな先入観(推論の誤り、認知の誤謬)が作用し、表面的な考え(表層ビリーフ。自動思考)に大きく影響を与えます。

いろいろな先入観(推論の誤り)とは、たとえば、

・成功か失敗か、つまり、成功しなければ、自分は失敗者だという「全か無かの考え方」

・現実的にありそうな可能性を見ずに、否定的な予想をして、「私はこんなに自信をなくしている。今後も、物事がうまくいくことはないだろう」といった、「運命の先読み(破局観)」、

・業績を悪化させた。自分はダメ人間だという「誤ったレッテル貼り」

・自分の短所や失敗を拡大ししたり、逆に自分の長所や成功を過小評価する「拡大視・微小視」

・この仕事でうまくいかなかったから、結局自分には仕事をうまくやることができないといった「過度の一般化」

・自分が何かへまをしたから、上司の態度が変わったんだと、理由もなく、他のありそうな見方を考えずに、自分のせいだと思いこむ「自己関連付け」

・こんなに評価が低いということは、自分の仕事全体がどうしようもなくひどかった、というように、良いことも悪いことも実際は起きているのに、否定的な面だけを取り上げる「心のフィルター(選択的抽出)」

・ミスをしてしまった。自分は常にベストを尽くさなくてならないのに、という「ねばならない思考」、などなど、

自分自身では気がつかないけれど、現実の仕事や生活で、知らず知らず思い込んでいる、間違った判断の枠組みのことです。

実際にこの方法をどう活用したらよいでしょうか。

まず、どんな状況がいつ自分に問題になっているか、そしてその時に頭にある考えは、何だろうか?、その時の気分は?、と表面的な考え(表層ビリーフ。自動思考)をモニタリング(観察・記録)します。表面的な考え(自動思考)は、本当に、自動的に一瞬に通り過ぎていくものですから、しっかり、モニタリングします。

つぎに、その表面的な考えが正しいと思う根拠や理由を探します。同時に、その表面的な考えについて、もしかしたら間違っているかもしれない根拠や、見逃しているかも知れない事実を挙げてみます。

たとえば、

表面的な考え(表層ビリーフ、自動思考)が、「この仕事・課題は難しい、自分には無理だ」と考えた場合、それが正しいと思う根拠や理由を考えます。

たとえば「この仕事は、今までやったことがない、これまで、上司がやっていた仕事で、自分には経験も知識もないから、無理だ」とか、いうことです。そのことを考えると、不安になってしまい、現在やっている仕事もままならない、などです。

一方、もしかしたら間違っているかもしれない根拠や見逃しているかもしれない事実というと、「いや、今までやったことがないというが、これまでも、新しい事業にチャレンジしてどうにか上手くこなしてきたではないか、経験や知識がないときでも、同僚や上司のオンザジョブトレーニング(OJT)やいろんな研修を受けて、すこしづつでも習得してきたんじゃないの」といった考えのことです。

表面的な考え(自動思考)が見逃しているかも知れない事実を判断する場合、最悪の事態ではなく、最良の事態を想像してみる、自分の同僚や友人が同じ状況に置かれたときに、もし自分だったらどうアドバイスするか、相手の身になって考えてみる(これはなかなか難しいですが)、自分の能力や責任以外の事柄を考える、などがあります。

このように、表面的な考え(自動思考)の前提となっている「深層にある思い込み」(スキーマ)から出ている先入観(推論の誤り)を明らかにしたり、表面的な考え(自動思考)が見逃している事実を見直し、別の考え方を取ったりして、なくなった自信のもととなる考えを変え、自信を取り戻していこうという方法です。

次回は、この「深層にある思い込み」(スキーマ)に焦点を当て、より深掘りした方法をとりあげ、どう自信を取り戻すかを考えてみましょう。

【参考】認知療法実践ガイド基礎から応用まで (ジュディス・S・ベック)

心理療法ハンドブック (乾吉佑 他)

ヤングのスキーマ療法

前回の2番目の方法では、小さい頃から形作られた自分、将来、周囲への否定的な考え方のことをスキーマ(抑うつ/不安スキーマ)と呼びました。この深層にある思い込み(抑うつ/不安スキーマ)が、大人になったときに、その思い込みと同じような出来事に出くわすとその深層の思い込み(スキーマ)が刺激され、活性化されて、自信をなくし、うつや不安に陥るとの考え方(領域一致の仮説)を解説しました。

たとえば、小さいときから、「自分は出来が悪い」というスキーマをもった人が、大人になって失敗すると、そのスキーマが活性化され、「やっぱり自分はそうなんだ」と自信をなくし、うつや不安になる、ことが知られています。

さて、このスキーマをより詳しく調べていきましょう。

18のスキーマをここでは、すべてを解説はしませんが、「自信」と関係ありそうなスキーマをピックアップしましょう。

「C他者への追従」、「D過剰警戒と抑制」と「E制約の欠如」が関係ありそうです。

「C他者への追従」とは、自分の欲求よりも他人の欲求を満たそうとすることで、自分よりも他人を重視します。こどもの頃から、自分の中に自然と生じる欲求に従うのではなく、親の愛情や承認を得るために、自分の中にある大切な面を抑えてきた人たちです。とくに、他人から評価されたり、承認されたり、注目されたりすることに、過度にとらわれており、しっかりした自己感覚を育ててこなかった人々です。地位、外見、経済力、業績にひどくこだわり、「評価と承認の希求スキーマ」をもつことになります。

「D過剰警戒と抑制」とは、自分自身の行いに対して厳格なルールをもっている人たちです。厳格で、抑圧的な家庭に育ち、自然な感情、幸福感やリラックス、健康といったことを犠牲にして、ルールを守るために日々の生活、仕事を行っている人たちです。子どもの頃、遊びを楽しむことなく、始終警戒し注意深くしていた人たちです。完璧主義や業績を上げることに没頭したり、厳格な基準と”~すべき”ことを求める、「厳密な基準/過度の批判スキーマ」をもつ人たちです。また、失敗した人は厳しく罰せられるべきであるという信念をもち、自分の期待や基準に見合わない人に対して、イライラしたり、怒りを感じたり、罰を与えるべきと考えます。自分の失敗も他人の過失も許すことができず、他者の気持ちに共感することができないタイプです。これは「罰スキーマ」となります。

Dのスキーマとは真逆なのが、「E制約の欠如」です。

小さい頃に甘やかされた家庭に育ち、自己中心的で、無責任で、自己愛的な人たちです。他人の権利を尊重したり、他者と協力したり、約束を守ることができない人々です。子供のとき、誰もが従うべきルールを守ったり、他人を配慮することがなく、自己制御についてのしつけを受けていません。自分が他人より優れており、特権と名誉を与えられていると信じている人たちです。成功者、著名人になることやお金持ちの人間になることに過剰な関心を抱いている人たちで、「権利要求/尊大スキーマ」をもつことになります。

これらの深層の思い込み(スキーマ)が幼少期に形成され、大人になってからも、そのスキーマに服従したり、回避したり、過剰補償したりして、自分の生活を生き抜いてきたのです。

服従とは、そのスキーマを真実であると認め、スキーマのいいなりになることで、たとえば、「評価と承認の希求スキーマ」では、自分のことを相手に印象付けるためにもっぱら振る舞うことで、「厳密な基準/過度の批判スキーマ」では、多くの時間を割いて完璧であろうとし、「権利要求/尊大スキーマ」では、自分の業績を自慢することなどがあげられます。

回避とは、そのようなスキーマがあたかもないように振る舞い、自らそのスキーマに気づかないように、注意深く生活し、スキーマが活性化しないように無意識的に生きていきます。たとえば、「評価と承認の希求スキーマ」では、この人に良く思われたいという人たちとの交流をさける。「厳密な基準/過度の批判スキーマ」では、成果が評価されるような場面を避け、「権利要求/尊大スキーマ」では、自分が優位性を発揮できない状況や自分が普通の人となる状況を避ける、ことになります。

過剰補償とは、そのスキーマと正反対のことをしてスキーマと闘うことで、たとえば、「評価と承認の希求スキーマ」では、できるだけ目立たないようにしたり、他人から批判されそうなことばかりし、「厳密な基準/過度の批判スキーマ」では、規範を無視したり不注意にあるいは大急ぎで取り組みます。「権利要求/尊大スキーマ」では、極端に下手にでたり、他人の要求に応じてばかりすることになります。

自分の胸に手を当ててみると、そうそうだ、といったことが思い当るかもしれません。

これらの深層の思い込み(スキーマ)は、そのとき、つまり、幼少期や思春期にはそれなりの意味があったはずです。そのときに、生きるために必要なことでもあったわけです。ところが、大人になって、周りの状況も環境も変わっているのに、深層の思い込み(スキーマ)は、当時のままで、なかなか気づかないまま、ここまで来てしまったのです。

今、自信がなくなったことと、幼少期からもっていて、今まで気づかなかった深層の思い込み(スキーマ)との関連を考えます。そうすると、自信喪失の深~い理由が、絡まった糸をほぐすように、すこしずつ分かってきます。

深層の思い込み(スキーマ)が分かっただけでも、自信喪失のひとつの原因が分かり、そこから生じてくる、表面的な考え方(表層ビリーフ、自動思考、不合理な考え方、否定的な考え方)の間違いが分かり、それに気づくことで、自分でその間違いを修正することができます。

【参考】スキーマ療法 (ジェフリー・E・ヤング)

対人関係療法(IPT)

詳細をこちらに載せています。